
かつてインド中に存在した移動映画館。
時は過ぎ、経済発展と技術革新によって没落産業となり、現在はただマハーラーシュトラ州に48館あるに過ぎない。しかし、そこで生きる人々の生き様を描く『移動映画館』は、関わる人々のギラギラとした生き様を活写する。
短髪でガタイのいい男勝りのチャンディ姉さんと弟のバビヤは、巡礼祭に設置される即席遊園地でテントを張り、移動映画館を運営している。絶賛上映中の低俗ブルーフィルムは大盛況で、チャンディは弟に新しい服を買ってあげられるとはしゃいでいる。
しかしそんな折、父バブーは同業者たちとの賭博にのめり込み、ついには自分の映画館の権利を売り払ってしまう。
映画館を買い戻そうにも、フィルムは同業者に取り上げられてしまう。途方に暮れるチャンディ。
そんな折、手違いで新作映画を運んで来た映画監督のアヴィナーシュと出会う。農村部の客にとってはまったくのお門違いなアートフィルム「白い染み」に一縷の望みをかけ、チャンディは起死回生を誓う。
映画の宣伝手法は「何でもあり」だ。
アートフィルムなのに積極的にエロを打ち出して観客の気持ちを扇情的に煽り、入場特典に化粧品や家電を用意し、映画女優と触れ合う特典を設けてチケットのまとめ買いを促進し、あまつさえ勝手にフィルムを編集して(他の映画のフィルムを混入させたりまでして)、エロに拍車をかけてさらに客を煽る始末。
あの手この手のバイタリティあふれる宣伝戦略は泥臭く、力強い。
洗練をよしとし、人目を気にして空気を読みまくる現代日本人には、「ありえねー」と爽快に笑い飛ばす快楽を味あわせてもらえること請け合いだ。
しかしふと我に帰るのである。移動映画館という沈みゆく船に乗っかった物語は、この映画を観ている自分の物語ではないのかと。しんどい現実、希望の持てない未来を前になすすべくもなく立ち尽くすしかない自分のイメージが一瞬よぎる…
しかしチャンディ一座は止まらない!映画にすがりついて力強くあがき、移動映画館とともに埃っぽくだだっ広いデカン高原を巡礼祭から巡礼祭へと今日も駆け巡る。
『移動映画館』は、映画に生きる、いや映画でメシを食っていくしかない人々の強さと儚さが刻印された、愛しきロードムーヴィーなのである。
『移動映画館』
監督:ガージェンドラ・アヒレ
出演:トルプティ・ボイル、スボードゥ・バヴ
製作年:2013年
製作国:インド
上映時間:107分


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