Toggle

サスペンス・ミステリー

余白にずっぽりハマる『マジカル・ガール』

余白にずっぽりハマる『マジカル・ガール』


(c)Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados

『マジカル・ガール』の魅力は、切り口の設定のしかたによって様々な捉え方が可能な点であろう。
で、僕が設定した切り口は「愛」である。
なぜならば、本作の円環構造がそれを端的に示していると感じたからだ。

冒頭の、少女時代のバルバラの手から数学教師ダミアンの悪口を書いたメモが消えていたシーンと、ラストの、ダミアンの手からバルバラを苛み続けた携帯電話が消えていたシーン。
この2点を往復する円環構造と捉えると、『マジカル・ガール』は、バルバラとダミアンの愛の往還が器として語られている映画であると捉えることもできる。
その器の中に盛られているのが、白血病で余命いくばくもない娘を喜ばせるために、日本のアニメの高額なプレミアグッズを手に入れようと奔走する失業中の文学教師ルイスの物語。
この物語の発火点もやはり「愛」であり、それによって本来交わる必然がなかった人々を結びつけ、悲劇を召喚してしまう。

…てな具合に、本作は観た人たちがそれぞれ最も腑に落ちる解釈を模索したくなる、いや、模索せざるをえない作品だと思う。なぜなら本作はあまりに大きな余白を有した映画だからである。

バルバラとダミアンの関係について、実は全くといっていいほど描かれていない。
ダミアンが恐らくバルバラ絡みのトラブルで長らく刑務所にいたこと。そのダミアンの「刑務所で様々な犯罪者と出会ったが、私は12歳の少女に対面した時ほどのパニックを経験することはなかった」という激白。等々の断片が提示される程度であって、あとは想像するしかない。
いったい二人の間に何があったのか?想像するだけで悶絶しそうだ。

大事なことが観客に委ねられている、というか丸投げされているのである。
かといって消化不良あるいは逆に勿体ぶった感じにもなっていない。
劇場用長編は本作が初監督というカルロス・ベルムトの確かな手腕を感じるところである。

僕にとって『マジカル・ガール』は、人間が世界で共に生きる苦しみと、それでも愛をもって生きざるを得ない人間の辛さを噛みしめることになる、とびきり苦いコーヒーを味わったような忘れ難い作品である。

『マジカル・ガール』
監督:カルロス・ベルムト
出演:バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ、ホセ・サクリスタン
製作年:2014年
製作国:スペイン
上映時間:127分

The following two tabs change content below.
館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、2018年からは東京でも上映会を始めました。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
Return Top