孤独-
世の人々が恐れる最たるもののひとつであろう。
現在のSNS隆盛のご時世下において、人々はあらゆる方向につながっているように見えて実は全然つながっていない。わざわざここで僕が指摘するまでもなく、多くの人が実感していることだと思う。
一方、映画を評するさいに“この映画は現代人の孤独をえぐり出している~”などという、あまりに使い古された陳腐なフレーズがあるが、恐らく本当に長いこと人々は孤独だったのであり、これからも孤独なのだろう。であるなら、映画との接し方として「映画を観ながら孤独を噛み締める」というのがあってもいい。僕は「サイの季節」をそのように味わい、愉しんだ。
詩人として成功した主人公は美しい妻と幸せを享受していたが、妻に劣情を抱いていた運転手が革命によって権力を持つや否や卑劣な手段に打って出たことにより二人の仲は引き裂かれ…
胸の痛くなるような話だが、映画としてはまあよくある話である。
脈絡なく亀が空から降ってきたり、サイが走り回ったり、馬が自動車に首を突っ込んできたりして不意を突かれるが、特段斬新な演出というわけでもない。では、僕はこの映画のいったい何に心惹かれたのか?
それは、銀残しのような独特の絵によって描き出された「人の顔」だ。
とりわけ30年の禁固刑を経て腑抜けのようになってしまい、せっかく妻を見つけ出したのに近づけずにいる主人公に刻まれた深い皺をとらえた数々の表情が印象的だ。そんな顔が風景の中に置かれた1つ1つのショットが、優れた絵画や写真のように完璧だ。この映画は、そんな絵の連なりに身を任せていればよい。
この映画の登場人物はみな一様に孤独だ。その孤独が、悲しみが、わびしさが全編に漂い、詩情としか言いようのない雰囲気を醸し出している。
「酔える」一本である。
「サイの季節」
監督:バフマン・ゴバディ
出演:ベヘルーズ・ヴォスギー、モニカ・ベルッチ、ユルマズ・エルドガン
製作国:イラク/トルコ
製作年:2012年
上映時間:93分
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