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ヒューマン

怪人老人、軽やかに老いを演じる。『運び屋』

怪人老人、軽やかに老いを演じる。『運び屋』

(c)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BVI)LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

イーストウッドの新作。予告編は何やら重々しいし、前作『15時17分、パリ行き』であんなこと(出演者全員がテロ事件の被害者の演技素人)をやられているし、いったい何を見せてくれるんだろうと期待半分・身構え半分で劇場に向かった。が、久々にイーストウッド本人が演じる主演の老人の立ち居振る舞いは軽やかだ。生業のデイリリー栽培が立ち行かなくなって始めた運び屋稼業。積み荷の正体がわかってからも鼻歌まじりでハンドルを握る。雇い主からの寄り道するなという指示も軽くスルー。タイヤのパンクで困っている人がいれば迷うことなく手助けする。

設定上90歳の老人の余命はあと僅かなのだろうが、稼がにゃならんことが実に多い。車の買い替えやデイリリー栽培施設の買戻しに始まり、次第に金の使い方は人助けの方向へシフト。孫娘の学費、退役軍人会の施設の再興などなど。家族をないがしろにしてきた人生への贖罪の色合いが濃くなってゆく。が、そんな重みを感じさせることなくせっせと麻薬を運びまくる。若い世代に説教を垂れる。女も抱く。

白眉は、イーストウッドとその後継者とも言われるブラッドリー・クーパー演ずる麻薬取締局捜査官との2度だけ交わされる会話だろう。カフェテリアでのファースコンタクト。そこで何気なく交わされるとんでもなく緊張感を孕んだやりとり。これを踏まえたうえでラスト近くの大捕物の末に捕縛されたさいに交わされる含蓄ありまくりのやりとり。

エンディングの刑務所のシーンはあの世の趣もあり、本作がイーストウッドの遺作となるような縁起でもない空気も漂っているが、次作もさらっと届けてくれるに違いない。
劇中の老人の足どりはヨボヨボしているが、じっさいのイーストウッドは椅子からカンガルーのように飛び出すとブラッドリー・クーパーが証言している。イーストウッドは「老い」を演じていただけなのだ。

『運び屋』
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ダイアン・ウィースト
製作年:2018年
製作国:アメリカ
上映時間:116分

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、2018年からは東京でも上映会を始めました。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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