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大学を出たけれど職がなく、北朝鮮との国境にある荒廃した感じの農村ではいつくばるように生きているジョンスは、同郷の幼なじみヘミと再会する。彼女は整形していて昔の面影はまるでない。ジョンスは彼女から、アフリカに旅に出るから留守中に猫の世話をしてほしいと頼まれる。やがて帰還した彼女の傍らにはハンサムな青年ベンがいた。3人の奇妙な関わり合いが始まる。というか、若い貧しいカップルのもとから女だけが謎のリッチな青年に連れ去られ、その世界にジョンスともども観客のわたしも無理やり付き合わされているような、なんとも居心地の悪い空間に引き込まれた。
ベンはお金持ちで立ち居振舞いが洗練されているが、どこか胡散臭い。正体が知れない。
ヘミがジョンスに語る幼少期の想い出としての「井戸の話」は、本当にあったかどうかの確証がない。
ジョンスは作家志望だが何かを書いている気配は全くない。「世界のことがよくわからなくて、何を書くべきかわからない」とまで告白している。
確かなことなど、この世界のどこかにあるのだろうか?他者と自分の関わりあいにはっきりしたことなどは何もなく、常に何かが欠落しているのではないだろうか?が、人は人に恋するとその欠落を受け流すことができなくなるらしい。ジョンスはヘミを追い求め続ける。ヘミは忽然と姿を消してしまったのだ。
彼女が行方不明になる直前に、ベンはジョンスに、ビニールハウスを燃やすという趣味(?)を告白する。
ビニールハウスはジョンスの居所の近くにあると、わざわざベンは予告した。ジョンスはベンを追跡し続ける。ベンはそれに気付いているようないないような。映画は、ベンがヘミの消失に何らかの関与をしたという雰囲気を匂わせ続ける。何なら彼が彼女を殺したのかもと。が、この件に関してベンはおそらくシロである。エンディング近くでその根拠も示される。いったい何がどうなっているのか?
ヘミがパントマイムを披露しつつ、そのコツについてジョンスに語る場面がある。「“ある”ということを信じるのではなく、“ない”ということを忘れることが大事」だと。このことを「目に見えるものだけを受け入れて生きるのでなく、目に見えないものも受け入れる」と解釈してみると、ヘミはもがきながらも人生の意味を探しているように見える。3人の登場人物の中でふたりの男は空虚感を抱えているが、ヘミだけが主体的に生きている。
そのヘミの消失を描いた本作を観終わった時、映画の中でようやく何かを書き始めた(ように見える)ジョンスと共にわたしは向き合いたいと思った。世界とは何か、人と人はどう関わっていけばいいのか?という命題と。
『バーニング 劇場版』
監督:イ・チャンドン
出演:ユ・アイン、スティーヴン・ユァン、チョン・ジョンソ
製作年:2018年
製作国:韓国
上映時間:148分


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