若くして肺結核を患い、ジャン・ヴィゴが29年の短い生涯で撮った映画はわずか4本。ドキュメンタリー2本を経て初めて撮られた中編劇映画が本作である。
対独協力の汚名を着せられ、34歳の若さで獄中死した父の死後、本名を名乗ることもできずに耐え忍んだ少年期の苦難が、子どもをめぐる本作を撮り上げる動機になったともいわれている。
が、そういった背景を知らずに予備知識なしで鑑賞に臨んだとしても、本作の奇異な演出のオンパレードに、「映画は自由だ、表現は何でもアリだ」という感じが溢れていて楽しい。
例えば、
・先生たちが緊張の面持ちで迎えた校長先生だが、子どもが付け髭をして演じているようにしか見えない。
・シーン前後の脈絡なくチャップリンの真似をする新任教師。しかもその動作の切れ味はすこぶる鋭い。
・教室で逆立ちをする新任教師。彼が逆立ちしながら描いた絵が動き出すアニメーション。
・子どもたちが学校の記念式典を粉砕するシーン。学外のお偉方が正装して列席しているが来賓席の後列は木偶人形。
…などなど。
「操行ゼロ」とは、寄宿学校で終始監視下に置かれた子どもたちが、品行の悪さを教師から指摘された場合に日曜の外出を禁止されるという最大級の懲罰のことである。本作は、権威を振りかざし抑圧する校長や教師たちに、子どもたちが反乱を挑む姿を活写する。
白眉は、舞い上がる羽毛の中を子どもたちがベッドからベッドへ縦横無尽に飛びまわるシーン。コマ落とし、スローモーション、フィルムの逆回転を駆使して描かれるこの超現実的シーンを、われわれ観客は唖然と見送るしかないだろう。
羽毛布団とは寝具という有用な道具である一方、解体すればひらひらと舞う無意味なものだ。子どもたちに、いつまでもそのひらひらの中ではしゃいでいて欲しいと、わたしは切に願う。
ラストの式典粉砕のシーン。悪ガキ4人組が学校の屋根の上から式典の列席者たちにガラクタを投げつけ、髑髏印の旗を掲げる。新任教師や生徒たちが歓声をあげて彼らを支持する。意気揚々と屋根の上を歩く4人の子どもたちの後ろ姿を仰角で捉えたラストショットは、まるで彼らが空に登り自由をつかみとったかのように見えた。
2018年12月30日。イメージフォーラムにて開催された「ジャン・ヴィゴ監督特集」にて鑑賞
『新学期 操行ゼロ 4Kレストア版』
監督:ジャン・ヴィゴ
出演:ルイ・ルフェーブル、ジルベール・プリュション、ジャン・ダステ
製作年:1933年
製作国:フランス
上映時間:45分
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