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観る者を強烈に惹きつけるか、あるいは拒絶するかを峻別する作品だ。それは本作で多用される長回しをどう受け止めるかによるだろう。
まずは、冒頭の家屋全景を捉えたロングショット。妻のM(ルーニー・マーラ)が、画面奥に遠目で確認できる家の扉と画面手前のゴミ捨て場を往復するカットが、強い印象を残す。映画ならではの奥行きを体感できる喜びを味わえると同時に、この作品は心して観ないといかんぞと、気持ちが引き締まる。
次に、Mと夫のC(ケイシー・アフレック)がベッドで愛撫し合うカット。これが「いつまでやっとんじゃい!」と感じるくらいに長い。ここに没入できるかどうかが本作を楽しめる分岐点かもしれない。幸い没入できたわたしは、CがMの手や唇の肌触りを感じている触感をリアルに意識することができた。ここが非常に重要なポイントで、なぜならこのすぐ後、Cは交通事故で死んでしまうからである。病院の死体安置室でお化け(目の部分をくりぬいたシーツをまとった、まさに「お化け」の造形だ)として目覚めたCは、自縛霊として家に縛りつけられ、Mのそばをかた時も離れずに見守ることになるのだが、Mに決して触れることができない。その切なさを、先の長回しカットが強烈に意識させる。
極めつけは、Mがチョコレートパイを貪り食べCがそれを眺めているというカット。いま何が起きてるんだ?と訝るくらいに長い。ここにきて、本作は、効率的にストーリーを語るという姿勢を放棄し、長回しを意図的に使用していると確信する。
本作で描かれるのは死者の時間である。死者が意識を持ち、お化けとして存在するのかどうかは(わたしは死んだことがないので)わからないが、生者とは明らかに異なる時間感覚を生きているにちがいなく、本作で描かれた時間がまさにそれだと思わせてくれた。
Mが家を去り、新たな家族が住みつき、やがて家が取り壊され、高層ビルがそびえ立つ。そこから一気に西部開拓時代に時間が飛び、さらに突如として生前のCとMが愛し合ってた頃の冒頭に時間が戻ってくる。死者の時間は気が遠くなるほど長い。そして生者のように時間が一方的に流れて死とともにブツっと途切れるのではなく、円環を描いているのだ。
そんな死者の時間を説得力を持って描いた映画は、本作以外に存在しないのではないか。少なくとも、わたしは寡聞にして知らない。
『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ
製作年:2017年
製作国:アメリカ
上映時間:92分
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