(C)3H Productions Ltd
車がエンストする。車のガラスが大きい。フロントガラスが寝てなくて立っている。そのことによって得られる広い視界。カメラが、車から出て携帯で話し始める男性を車内から捉える。視界良好。しかし男が車でどこに向かっていたのか、いま誰とどういう連絡をとっているかは示されない。男は地下鉄に向かう。
地下鉄の車内で不意に美しい女に話しかける青年。「その荷物の中、鳥でしょ?」…挙動不審ぎみだなあ。しかし女は「ちがう」と返す。知りあいだったの?説明はされない。
車で生活する中年男性・フォン、鳥を飼うひとり暮らしの女性・シュー、注意欠陥的な症状を抱える青年・リー。時に語られる彼らの個人的なエピソードは断片的で、彼らの背景はよくわからない。彼らは過去に起こった何らかの出来事の影響によって前向きに生きることが難しくなってしまったような、一種の停滞状態を漂っているようにも見える。
鳥が逃げる。逃げた鳥を探す。フォンとシューとリーが初めて一堂に会する。話が転がり始める予感。その間、どこかのラジオからでも流れているのだろうか、京劇の音が絶えず低く流れている。間延びした不思議な時間。気持ちいい時間。鳥は見つからない。話は転がらない。
シューのスマホに何回もかかってくる「ジョニーへの間違い電話」。ジョニーとは誰なのか?最後までわからない。シューは番号を変えようともせず、むしろその間違い電話を楽しんでいる風ですらある。しかしそこから何かドラマが生起するわけではない。何も起きない。
シューとフォンとリーはときに交わりを見せる。が、人物たちはさほど接続されない。関連性を掘り下げることなく物語られることによって生じる、どっちつかずの浮遊感。
リーは記憶を留めておくことができない。大量のメモを壁に貼っている。この映画自体もその断片的なメモでできているかのようだ。
シューとフォンの乗った車がエンストする。何とか車を動かそうとする2人。そこからカメラがぐいっと引いて俯瞰でとらえた薄暮の立体高速道路。血管みたいな道路を無数に行き交う車。ああ、この風景こそ『台北暮色』。いいタイトルだね。
エンストに始まり、エンストで終わる。停滞と停滞に挟まれた物語。
監督:ホァン・シー
出演:リマ・ジタン(シュー)、クー・ユールン(フォン)、ホァン・ユエン(リー)
製作国:台湾
製作年:2017年
上映時間:107分
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