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母と9歳の息子の幸福そうなダンスで幕を開ける本作。
しかし雪の降りしきる日に母は息子の前から姿を消す。
死因が息子に伝えられることはない。
死因は病気を苦にした投身自殺である。息子のマッシモはその事実を30年もの時を隔ててようやく知ることになる。しかし、投身自殺であることは劇中に示される数々の「墜落」のイメージから匂いすぎるくらいに匂わされる。
母とあんなに楽しげにダンスに興じていたマッシモは、母の死後以降まったく踊らなくなる。
恋人が躍っていてもいっしょに踊ることはない。ダンスは封印されたのだ。
子供の頃、彼は母の死を認めなかった。
「お母さんは天国にいる」と諭されると「じゃあ自分も天国に行く」と駄々をこねた。あるいは「母はアメリカにいる」という嘘をつき通した。
反抗的な態度をとる少年時代のマッシモに老神父が諭すように語る。「君に必要なのは“もしも”ではない。“にもかかわらず”だ」。神父は続ける。「自分が不幸な目に遭ったにもかかわらず、自分の母が自分を置いて死んだにもかかわらず~」と。その先の「~」を埋めるのは君のなすべきことだと。
パニック発作の診察を機に知り合い恋人となった医者との間で、ついにダンスの封印を解くマッシモを目撃した時、僕は彼の中で何かが決定的に変わってゆく予感に胸が高鳴った。
恋人はプールで、彼の目の前で高飛び込みを決める。それは「墜落」の恐怖からの解放に見えた。
彼女は添い寝しながら「お母さんを行かせてあげて」と彼に優しく語りかける。いよいよマッシモが老神父の言葉を実践する人生が始まる。母が死んだ“にもかかわらず”その先の「~」を自ら埋める人生を生き始める!
しかしラストシーンはこうだ。
マッシモは幸福だった9歳の子供に戻っていく。母と家でかくれんぼをしている。マッシモは母を探すけれどどこにも見当たらない。不安になって思わず母の所在を問う。母はクローゼットの段ボールの中で息をひそめて息子の泣きべそを聞いているが、やがて息子を段ボールの中に招き入れる。まるで子宮のような心地よい空間にマッシモは囚われて映画は終わる。
人は何がしかに絡めとられて生きている。自由や楽しさを阻害している可能性すらあるその「何がし」から真に脱却できる人が果たしてどれほどいるのだろうか?あるいはそうしたいと心から思えることすら稀なのかもしれない。しかしそれでも人生は続くのである。
『甘き人生』
監督:マルコ・ベロッキオ
出演:ヴァレリオ・マスタンドレア、ベレニス・ベジョ、グイド・カプリーノ
製作年:2016年
製作国:イタリア、フランス
上映時間:130分


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