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風変りで耳に特徴があり、疑問は訊きただし、かつ論理的とこれば、スタートレックのバルカン人スポックだ。この主役に何を投影するのだろうか。言動や立ち居振舞いからすると同じスタートレックシリーズ「ネクストジェネレーション」のアンドロイド、データ少佐にさらに近い。違いはデータには感情がなく人間に憧れていることだが、主人公同様に子供の感性を大人の言葉で的確に語ることができるし、時に人間よりも人間らしい言動をとるのだ。
それにしてもあらゆる要素の入った作品だ。笑いあり涙あり恋愛あり、家族愛あり、友情あり、仕事あり、かつ宗教に切り込んでいるから社会性もある、そして当然歌も踊りもあるのだ。さらに伏線はキッチリ拾ってゆくし、これだけ入って150分は短いかもしれない。とても密度が濃くなる。
宗教に関して言えば、信仰や布教には疑問を呈しているが教義や信じることは否定しているわけではない。宗教という授業で聞いただけの知識だが、お釈迦様は真理に気付いた後これを広めようかかなり迷ったそうだ。結局弟子達にも説得され布教を始める。モハメッドがどうだったかは知らないが、偶像禁止は布教へのくさび石の様にも思える。それだけ布教や信仰にはリスクが伴うということだ。だからことさら意気込んで現世利益ばかりを標榜する宗教は怪しいということだろう。
主人公は「嘘をつく」という発想を持っていなかった。これが後半のクライマックスの種まきとなる。それにしても他人の頭の中がわかりすぎるのは面倒そうだ。自分なら精神的に耐え切れないだろう。超能力なら精神感応力に近いのだろうが、念動力や瞬間移動と比べても一番持ちたくない能力かもしれない。思えば、火田七瀬もカミーユ・ビダンもこの精神感応力のせいで辛い目に合う。鈍感力バンザイである。
そしてこの作品を支えるのは、素敵なヒロインだ。容姿端麗なのはもちろん、この女性は昨今(映画ですら)見かけなくなった男子のやせ我慢を、受け止めた上でやさし~く見守ることができる女神のような存在なのだ。彼女があってこその『PK』だというのは言うまでもない。
『PK』
監督:ラージクマール・ヒラーニ
出演:アーミル・カーン アヌシュカ・シャルマ、スシャント・シン・ラージプ
製作年:2014年
製作国:インド
上映時間:153分
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