
© YUMEAKI HIRAYAMA / TORU KAMEI
ひたすら辛い。痛い。苦しい。
それが『無垢の祈り』を観て、最初に湧き上がってきた感情だ。そしてそうした感情が一巡りし、脳内がリセットされた瞬間に突き刺さってきたのは「罪悪感」だった。
なぜなら、本作で描かれているフィクションは、今この瞬間にも、日本のどこかで現実に進行しているであろう悲惨なノンフィクションだからだ。そして観客はスクリーンという絶対的な境界を通じて、そうした過酷な現実に対する無力さを思い知らされる。映画の中で拳や鉈が振り下ろされるたびに、何度も何度も。
手を差し伸べられる距離にありながら、永久に触れることができない。仮に触れられたところで、自分にできることは何もない。なら観るしかない。傍観するしか。
本作はそうした傍観者であることの後ろめたさを、スクリーンという薄紙を介して容赦なく突いてくる。同時に現実に立ち向かおうとする者に対しても、真の地獄には逃げ道などないことを、執拗に訴えてくる。お前ならどうする、お前ならどうすると、答えのない問いをひたすら突きつけられる。
詰まるところ、「知る」という行為は諸刃の剣なのだ。何かを知って得することもあれば、逆に何かを知って後悔することもある。だったら何も知ることなく、現状維持の幸せを噛みしめつつ生きていけばいい。そしてもし何かを知りたいのなら、覚悟して知れ、と。
本作は一応フィクションの体裁を採っているので、例えば児童虐待という陰鬱なテーマを描く際も、露骨な描写は避けて人形を使っていたりする。が、故意か偶然か、普段なら救いとなるはずのこうした自制心が、本作に限っては、現実に対して手も足も出ない主体の絶望を強調し、人間の闇や狂気を浮き彫りにする触媒の役割を果たしている。
そして唐突に訪れるラストシーン。どこまでも陰鬱で、悲痛で、絶望しかないが、かのホラーの名作『悪魔のいけにえ』のラストシーンを彷彿させるほど構図的に美しく、ストーリー的に完璧である。必然のラスト、とはこのことを言うのだろう。
明らかに観る者を選ぶが、この絶望と救済が交錯する、荘厳ですらあるラストシーンだけでも後世へ語り継がれる一本であることは間違いない。ただし、観るなら自己責任で。
『無垢の祈り』
監督:亀井亨
出演:田美姫、BBゴロー、下村愛
製作年:2015年
製作国:日本
上映時間:85分


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