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ヒューマン

映画のマジックで居場所探し『ミッドナイト・イン・パリ』

映画のマジックで居場所探し『ミッドナイト・イン・パリ』

自分は生まれ落ちる時代を間違えた、と過去に思いを馳せている人は案外多いのではないだろうか?
「独眼竜政宗(1987年放送)」で渡辺謙演ずる伊達政宗も「あと10年早く生まれていれば秀吉でなく自分が天下をとれたのに!」と歯軋りして悔しがっていて、仙台出身の僕もテレビを観ながら一緒に嘆いたものだ。

『ミッドナイト・イン・パリ』の扱う過去はそういうことではなくて、ノスタルジーである。

アメリカ人脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、裕福な家の生まれの婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)と旅行にやってきたパリに夢中になり、パリに住んで小説を書くんだと力説する。
しかし現実主義者のイネズは一蹴。
イネズの両親にも軽くあしらわれ、彼女の友人でソルボンヌ大学の教授だというインテリ男ともウマが合わず、せっかく大好きな街に居るのに居場所がない。
そもそもこの旅行、イネズのお父さんのゴチで来てるし。

今に居場所がないギルは、過去に思いを馳せる。
ノスタルジーだ。
そんなギルに映画はマジックをかけ、過去に連れ出してくれる。

夜のパリをひとり散策するギルは、真夜中の鐘が鳴った後に現れた1台のクラシック・カーに乗り込むが、着いた先はなんと彼が「ゴールデンエイジ」と憧れてやまない1920年代のパリだったのである。
ギルが真夜中のパリで出会う1920年代の芸術家たち。
ヘミングウェイ、ピカソ、ブニュエル、ダリ、フィッツジェラルド&ゼルダ夫妻…

しかし憧れの芸術家たちは現実はなんて空虚なのかと嘆き、各々のノスタルジーに囚われて生きているのである。
ギルと同じなのだ。いや、人はみな「今ここではないどこか」にいつも思いを馳せているのかもしれない。

そして映画は最後にもう一度マジックをかける。
真夜中の鐘が鳴ってももうあの憧れの時代へ向かおうとはせず、ひとり真夜中のパリを彷徨うギル(イネズとは別れちゃった)の前に、ある女性(レア・セドゥ。超チャーミング!)が現れる。
突然降ってきた雨に打たれ、2人は一緒に歩いていく。
その光景は、とりあえずノスタルジーと折り合いをつけ、現実に居場所を探し始めたギルを映画が祝福しているように見えた。

なんとも都合のよいお話だが、「今に生きよう」などと鼻息を荒くしなくても、そっと現実に軟着陸させてもらったような気分になれる、僕にとっての精神安定剤的一本である。

『ミッドナイト・イン・パリ』
監督:ウディ・アレン
出演:オーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス、マリオン・コティヤール、レア・セドゥ
製作年:2011年
製作国:スペイン、アメリカ
上映時間:94分

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、2018年からは東京でも上映会を始めました。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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