猥雑なパワーに満ちた実に東映らしい快作である。
東映(本作は日活と共同配給だが)にはこういう作品をどんどん世に放って欲しい。
主人公の悪徳警官・諸星を演じる綾野剛が素晴らしい。
エネルギー全開で「バカ」を演じ切っている。すごいバカだ。
何がバカって、徹頭徹尾「社畜」な在り方である。
警察は会社じゃないから社畜って言葉は適切ではないが、まあ似たようなものだろう。
仕事の種類は何であれ、組織に雇われた身であるならば、仕事人というものは組織の利益に貢献しているかどうかという一点のみでその存在意義が決定される。
多くの人間はそのことに(たぶん)自覚的であり、組織の命ずるところと己の価値観とを適宜調整しながら世の中を渡っているものと思われる。
諸星は「組織の命ずるところ」サイドに振り切っている。
やってることは紛れもなく悪だし、ガラも悪い(ガラ悪くなろうとして完全にはなりきれていないという綾野剛の難易度の高い芝居はなかなかの見応えあり)。
ただ、諸星本人に悪の自覚はないだろう。
であるがゆえにまっしぐらに悪の道に堕ちていく様は滑稽としか言いようがないが、そのあまりに見事な堕ちっぷりに喝采を送りたくもなり、同時に空恐ろしくなるのである。
諸星は自己承認欲求も過度に強い。
とにかく点数ノルマをこなし、実績をあげて「認められたい」のである。
さらに無意識化されている正義感も加勢しての行動にかかるドライブは、すさまじいの一言である。
行動だけみると現実離れしているが、僕はこの諸星という男を決して突き放して観ることができなかった。
なぜなら僕も社畜であり、自己承認欲求を抑えきれないことがあり、根拠のない正義感に突き動かされることもあるからである。
映画の猥雑なパワーに酔い、無軌道な人間を笑い飛ばしつつ、自分を振り返って寒くなる。
『日本で一番悪い奴ら』にはなかなかに揺さぶられてしまった。
綾野剛と絡む女優陣2名(矢吹春奈、瀧内公美)の頑張りも素晴らしい。
『日本で一番悪い奴ら』
監督:白石和彌
出演:綾野剛、ピエール瀧、中村獅童
製作年:2016年
製作国:日本
上映時間:135分
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