こないだの『サイン』のレビューで、本作はシャマランの原点回帰であると嘯いてみたが、いやしくもシャマラニストを自称する者としてこれは浅薄な考察であった。ちょっと頭が沸いてた。魂抜けちゃってた、軽く。
んだってばシャマランに原点回帰などありえない。なぜならこの男はシャリとネタの組み合わせから生まれる小宇宙、映画という名の寿司だけをデビュー当時から一貫(寿司だけに)して握ってきた剛の者だからだ。たまに何を思ったか深海魚やカライーカ、しまいには魚拓なんかをネタに載せちゃって食べログのコメント欄を炎上させたりもしたけども。
そんなことを最新作『ヴィジット』を観ならがら再認識した。この緊張感と脱力感がかわるがわる、あたかも知る人ぞ知る名古屋名物ブラジャー丼のように襲ってくる作風はまさにシャマランの真骨頂。近年は意図的に避けているようにも見えたお得意のどんでん返しも、今作では鮮やかに決まる。
が、本作最大のどんでん返しは、実はこのどんでん返しそのものにある。
ネタバレになるので詳しくは書けないが、本作のどんでん返しは、シャマランなら“アレ系”のオチをもってくるはずという世間の先入観を逆手に取った、冷笑的な自虐ギャグである。それを裏付けるかのように、いかにもそっち系のオチが待っているかのようなミスリードも随所に散りばめられている。
自身を笑い飛ばせる人間は強い。本作においてシャマランはついに吹っ切れ、自身の凝り固まったイメージを客観的に分析した上で、この一見すると正道だが、実はとことん狂っている豪快などんでん返しを繰り出してみせた。
いや、もしかするとシャマランのことだ。これまでの作品はすべてこの一本、このどんでん返しへの布石だったという推論すら成り立つ。最初から10球目の鬼ツーシームでバッターを打ち取るつもりだったとも。
と、それはさすがに深読みしすぎだろうが、果たして次はどんなネタを切ってくるのか。
これだからシャマラン寿司はやめられない。
『ヴィジット』
監督:M・ナイト・シャマラン
出演:オリビア・デヨング
製作年:2015年
製作国:アメリカ
上映時間:94分
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