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映画『ゾンビ』を初めて観たのはおそらく中学生の頃。
確かホラー映画好きである兄が、ちょっとイッちゃってる系の映画マニアが経営する街角のレンタルビデオ店から『ゾンビ』を借りてきて、一緒に観たのではなかったか。
そして圧倒された。
もちろん、次から次へと景気よくゾンビたちの頭が吹っ飛ばされていく殺伐とした世界観にも萌えたが、何よりも衝撃的だったのは、ゾンビが遅かったこと。ノロノロ、フラフラと歩いていて、実際のところ登場人物たちも一度コツをつかんだあとは、ゾンビの海をすいすいと駆け抜けていく。
そう、ゾンビが怖くないのだ。
これは、私がそれまでに観ていたようなホラー映画とは明らかに一線を画していた。基本的にホラー映画に出てくるクリーチャーや怪人たちはアンチヒーロー的で強い。俊敏で、知的で、常に人間の一歩先を行っており、だからこそ対決の図式が成立してストーリー的にも盛り上がるわけだ。
しかし、『ゾンビ』の敵はゾンビではない。真の敵は、登場人物たちがサバイバルのために食料や物資を奪い合う、他の人間たち。特に中盤以降はこうした「人間対人間」の対決に重点が置かれ、肝心のゾンビたちはうー、あーと情けないうめき声を上げているだけの置物程度にしか描かれなくなる。
そして映画は何も解決しないまま、絶望的な未来を暗示させつつ幕となる。
爽快感やカタルシスとは無縁のエンディングだが、しばらくテレビの前で呆然として、「なんかすごいものを観てしまった」という形容しがたい感覚に襲われたことを、今でもはっきりと覚えている。
映画という2時間弱の娯楽は時に、観る者の人生や価値観を一変させるほどの影響を及ぼす。私にとって『ゾンビ』という映画は、そうした映画の持つ力の確固たる証明である。
『ゾンビ』
監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デビッド・エンゲ、ケン・フォリー
製作年:1978年、製作国:イタリア、上映時間:115分


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