
(C)1994 AGNES VARDA ET ENDFANTS
2019年3月に他界したアニエス・ヴァルダによる1975年制作作品。
ヴァルダが1950年代より事務所兼住居を構えるパリ14区、モンパルナスの一角にあるダゲール通り。撮影当時、ジャック・ドゥミとの子ども・マチューの世話を優先し自宅を長期間離れることを避けており、そんな理由もあって愛する慣れ親しんだ土地を撮影対象に選んだと聞く。
「銀板写真(ダゲレオタイプ)」を発明した19世紀の発明家の名を冠した通りには、様々な商店が立ち並ぶ。ヴァルダは住人と映画作家という二つの視点から、雑貨屋、精肉店、パン屋、時計屋、理髪店、仕立屋、自動車教習所を訪ねる。カメラはダゲール街から一歩も踏み出すことなく、ショーウィンドウの裏側で働く姿や、自らの生い立ちや伴侶との出会いなどついて語る住人たちの素顔を見つめる。パリという響きから連想されるお洒落で華やかなイメージと無縁の、古ぼけた佇まいの商店を営む人々の淡々とした日常をフィルムに焼き付ける。
やがて住人たちはマジックショーに集まる(ヴァルダじしんがこのショーに人々を「動員」したとも聞く。であるならば、本シーンは明確な意図のもとに演出されたとも言えよう)。我々観客は住人たちとともにマジックショーを堪能する。同時に奇術師が次々と披露するマジックと商店の日常的なヒトコマがモンタージュされていく。
・お札が増える→お店でのお札のやりとり。
・刃物で腕を刺し貫く→肉屋で肉がさばかれる。
・炎を飲みこむ→パンを釜に入れ焼きたてが出来上がる。
・顔を覆って無数の刃物を突き立てた箱をたたむ→店々が店じまいする。
この一連のモンタージュから、マジックと商店街の日常が地続きになる映画的魔法がかけられる。非日常と日常の二つの世界が映画作家の手によりモザイクのように一つの画となり、ドキュメンタリーでもフィクションでもない、唯一無二の「映画としかいいようのない世界」が立ち現れるのである。
本作は以下のナレーションで幕を下ろす。
「この映画はルポルタージュ?オマージュ?エッセイ?哀惜?批判?アプローチ?とにかく監督として署名しよう。ダゲール街のアニエス」。
ヴァルダにしか撮れない世界の誕生を自ら祝福したかのように。
『ダゲール街の人々』
監督:アニエス・ヴァルダ
製作年:1975年
製作国:フランス
上映時間:79分


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