
(c)2016 Gladys Glover-House on Fire-Chinese Shadows-WIL Productions
『苦い銭』は、子供服の中国最大の産地として知られる浙江省湖州市の縫製工場を主な舞台に描かれるドキュメンタリーである。
15歳の少女小敏(シャオミン)が、雲南省(中国で最も貧しい地域のひとつだそうだ)から同市を目指してバスと夜行列車を乗り継ぐ何千キロもの出稼ぎの旅で、本作は始まる。
小敏の勤める工場を夫の二子(アルズ)に家を追い出された凌凌(リンリン)が訪れる。彼女についてくるよう促されカメラが向かった先で、彼女が夫から受ける激しいDVを目の当たりにする。何でこんなものが撮れてしまうんだという驚きとともに、それを映画館の椅子に座ってただ眺めている自分は倫理的に許されるのかと問いを突き付けられる。許すも許さないも、自分はただ画面を見つめるしかないのだが、そういう観客サイドの身動きがとれない点を突いてくるのが、王兵(ワン・ビン)監督の狡猾なところだ。
夫婦の諍いを仲裁してやる中年男老葉(ラオイエ)はマルチ商法に興味深々。彼と同じアパートに住む飲んだくれが黄磊(ホアンレイ)。同僚が仕事中なのに酔っぱらって職場でくだをまく。彼が持ち歩くでっかい裁断用のハサミがいつ人に向かって振り下ろされるのか冷や冷やするが、それはホラーを見過ぎているわたしの杞憂でしかなく、同僚たちはいつものことといった風情でまるで相手にしない。
ここに至って可憐な佇まいが印象的だった小敏は冒頭しか登場していないことに気付く。小敏といっしょに列車でやってきた小孫(シャオスン)は仕事になじめず1週間で郷里に戻っていた。
このように、本作においては縫製工場で働く人間を次々にたどるように映しだしている。まじめに働く者もいれば、仕事についていけず酒に溺れる者や郷里に去る者もいる。いずれにしても、銭を求めて出稼ぎに出てきた彼らが金持ちになって「上がり」を迎える像はまったく見えてこない。いや、「上がり」なんて自分の人生の先にも見えないことにも後々気付いて愕然とする。
それはともかく、主人公なき本作において捉えられた人生模様は抜群におもしろく、2時間30分超えの長尺があっという間だったのが不思議でしかたなく、やはりワン・ビンは狡猾だと思い知った次第である。
『苦い銭』
監督:ワン・ビン
製作年:2016年
製作国:フランス、香港
上映時間:163分
オフィシャルサイト


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