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自宅でひとりピアノを弾いているシーモア。
ああでもないこうでもないとひとりごちながら、正しい演奏に近づくべくひとつひとつ問題をクリアしていく。
この冒頭シークエンスからたちまち「求道」の凄みが伝わってくる。
パンフレットに書いてあるが映画では描かれていないエピソード。
シーモアは「NY中の犬たちと握手する」ことで有名らしい。犬を見つけるとすぐに手を出すので、まわりは「手に噛みつかれたら大変」と泡を食うらしいが、「この子は決して噛まない」と意に介さないのだとか。
ただやみくもに犬を信じているわけではない。彼には自分を噛まない犬の本質が見えるに違いないと、本作を何度も観返した僕は確信を持って断言する。
朝鮮戦争従軍のエピソード。
マイナス18℃の中、30kmにも及ぶ行軍で次々と落伍していく仲間を尻目に堂々と行軍を貫徹した経験を語るシーモア。その活力の源は音楽を追及してきた精神力にあると半ば冗談めかして話しているように見えるが、僕には全然冗談に見えない。
宗教学者との対話。
穏やかに語り合ってはいるが(シーモアの語り口は常に穏やかだ)、宗教に対する意見は辛辣だ。
シーモアは言う。「宗教の我慢ならないところは、神は他にいて自分の中にはいないというところ」だと。
本当に大切な良きものは神が持っているのでなく、それぞれの自分の中にある。才能ある者が死ぬほど練習して届けてくれた音楽はそれに気づかせてくれる。だから人は音楽を愛する。耳を傾け、心を開く。
ピアノ教師シーモアが弟子たちにピアノを教える数々のシーン。
たった1小節の1音への指導がえんえんと続いたり、指の鍵盤への力の入れ具合が何度も直されたり。感情が昂ぶって肩がいかってしまう生徒には「エナジーが逃げてるよ」と肩を押えてあげながら指導したり…などなど。
物腰はおだやか。噛んで含めるように丁寧だが、彼の指導は細かくしつこく鋭く徹底的だ。気の遠くなるようなピアノの練習・演奏・指導を通じてその身に宿した「本質」に導かれるままに、その本質に向かって君もおいでよ、と導いているように僕には感じられた。
シーモアは語る。「芸術を深く極めたものは人生の深淵を理解する」と。
同時にこうも語る。「夢にも思わなかった。このふたつの手で青空を掴めるなんて」と。
『シーモアさんと、大人のための人生入門』
監督:イーサン・ホーク
出演:シーモア・バーンスタイン、イーサン・ホーク
製作年:2014年
製作国:アメリカ
上映時間:81分


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