
若かりし頃の美しく快活なサビーヌと、別人のように太って目も虚ろな現在のサビーヌが交互に描かれる。それはもう徹底的に残酷なほどに「対比」されている。
精神病院に拘束され、強力な薬を飲まされたことで身体の様々な機能が損なわれた結果が今のサビーヌの姿なのだが、現在彼女が暮らしているのはひとまずは丁寧なケアが施されていると思われる施設で、ただし今も服用している薬の影響もあってかだるくて動くのが辛そうである。
過去のサビーヌと今のサビーヌとの対比は続く。
過去の映像にスローモーションがかけられるという「演出」が施され、映像に残っているサビーヌの姿はもはや夢の世界であるかのような、悲しみを超えたやるせなさを与えてくる。
5年にも及ぶ精神病院の実態は描かれていない。もちろん意図的に描いていないのでなく、そもそも撮られていない(撮れるわけもない)からなのであるが、作劇上期せずして省略された形となったこの5年間の過酷さは想像すら憚れるほどだ。
その前後のサビーヌの変貌ぶりを終始見せつけられるに及んで、人は人を意図的にも意図せずとも破壊する力を持っていることに目を向けさせられる。人間の強大な闇の力…
ラスト。
姉であり監督のサンドリーヌ・ボネールが撮りためた自分の過去の映像を目にして泣き出してしまうサビーヌの姿に不意を突かれる。彼女はどんな思いでこの映像を見たのだろうか。過去と今の「対応」をどんなふうに捉えたのだろうか。想像する術すら見いだせない。
やがて少し間を置いてふっと微笑む彼女を見て再び不意打ちを食らう。が、彼女は再生する光を見出したのかもしれないと考えることも可能な「希望の不意打ち」でもある。
劇中、サビーヌが奏でる、バッハの「平均律第1巻第1番プレリュード」。
若かりし頃のように滑らかには弾けない。これも残酷な対比だ。しかしサビーヌの豊かな感性はまだ完全には失われていないと感じさせてくれるシーンであり、人間の闇の強大さに屈するにはまだ気が早いのではないかと、今となっては僕は少しだけ救われているのである。
『彼女の名はサビーヌ』
監督:サンドリーヌ・ボネール
出演:サビーヌ・ボネール
製作年:2007年
製作国:フランス
上映時間:85分


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