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男は酒場で『酒と泪と男と女』のように振舞っていても、切ないくらいに真面目で不器用、身内と思う人には何を言われてもキレないのに、赤の他人には些細なことでキレる。心を苛んでいるのは罪の意識だが意外にも自覚はない。根無し草のような『旅人だもの』という心境だろう。かつては『遠くで汽笛を聞きながら』みたく、何もいいことがなかったかのように生まれた街を去った。誰も罰してくれないから自ら罰するしかない『生きていてもいいですか』と心の声が聞こえてきそうだった。
兄の死後に話は展開する。連絡を受けて街に来るが、兄の遺言を知り『元祖高木ブー伝説』が示すところの無力な困惑の表情を見せる。兄の真意がわからないまま、戸惑いながら、少しずつ思いを理解していくようだった。兄は弟が街で暮らすべきだと思っていた。それこそが弟にとっての幸せだと固く信じていた。自分のいない家族には弟が必要であるとも思うからこそ、息子を託そうと考えた。息子は『ガラスのジェネレーション』ばりに「くだらない大人にはなりたくない!」と主張する若者らしい若者だ。
元妻には「この世も凍ってしまうような言葉」を叩きつけられたのだろう。しかし彼女も感情のぶつけ先が夫しかなかった。『ルシアン・ヒルの上で』の2人が夫婦になったようなささやかな幸せは脆くも崩れ去り、『ロンリーバタフライ』のように愛が全てを変えてくれることはなかった。血のつながりのない他人を、事情があっても、酷く罵ったら、なかったことにはできない。『妹じゃあるまいし』もう元には戻れないと分かっているのだ。
『御機嫌如何』と彼に謝った元妻は、「女は意外と立ち直れるものなのでしょう」と、次のステップに踏み出していた。甥っ子のことも可愛い。そんな中で、言わば兄の無茶ぶりに応えてめでたしめでたしではなく、何とか自分なりの回答を出そうとするところが現実的だ。実際そんな容易く割り切れる経験とは思えない。『破れたハートを売り物にして』などとんでもない。自分の傷の深さを探ろうとすらしていなかったのだ。『駅』のように心の治癒は諦めて、一生抱える覚悟のいる苦い思い出だ。最後は男にも再生の兆しが伺えるようになる。この街と関わりを持ちつつ、時に闘いながら『いつかきっと』自分らしさを思い出す姿が見えるような気がした。その時、やっと自分が去ったことで皆を悲しませたと分かるのだろう。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
監督:ケネス・ロナーガン
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ
製作年:2016年
製作国:アメリカ
上映時間:137分


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