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仙台に未来の映画館を創る『館長日記』と『シネマレビュー』

ヒューマン

真剣が交叉する距離感『こころに剣士を』

(c) 2015 MAKING MOVIES/KICK FILM GmbH/ALLFILM

高校での部活はフェンシングをやろうと思っていた。
しかし新しいことに挑戦する勇気がなくて、結局中学から続けていた卓球部に入った。
何の偶然か練習場のすぐお隣がフェンシング部だったので、卓球の練習にあまり情熱を注げなかったこともありフェンシングの練習をよく眺めていたものだ。最初は物珍しかった。が、まもなく退屈の極みとなった。片方がひたすら歩みより、もう片方がひたすら後退する。これがえんえんと続くのである。

『こころに剣士を』ではフェンシングのシーンが度々描かれるのだが、これが実に緊張感に満ちていておもしろい。退屈とは真逆である。
フェンシングとは距離感のスポーツなんだなと了解した。
この距離感は物語にもうまい具合に落とし込まれており、主人公エンデルと周囲の人々が距離感を縮めていく姿が心地よい人間模様を紡いでいく。

本作の舞台となるエストニアは、第二次大戦中は独ソ戦の舞台となり、戦争の終結後はソ連へ併合された。恥ずかしながら僕はまったく知らなかったのだが、その過程で多くの成人男性が捕えられ、多くの子供たちが父親を失ったそうである。

ソ連の秘密警察に追われる元フェンシング選手のエンデルは、同国の田舎町・ハープサルに降り立つ。導入部からエンデルに対する後方からの撮影シーンが続く。彼はとある事情によってソ連の秘密警察から逃げており、逃走に伴う彼の不安とソ連の秘密警察が向ける追走の視線を否応なく意識させる。

小学校の体育教師に採用された彼は、かつて情熱を注いだフェンシングを子供たちに教え始める。
子供が苦手でぶっきらぼうなエンデルだが、子供たちは目をキラキラと輝かせながらエンデルを慕う。前述の背景から子供たちにとってエンデルは父親代わりでもあるし、美しいけど何もない戦後の田舎町で彼らは「打ち込むこと」に飢えていたのだ。
そんな子供たちのエンデルに向ける表情や視線を捉えたショットの積み重ねによって、僕の涙腺はたやすく決壊した。僕は「映画の中の子供」にめっぽう弱いのである。
(ちなみに現実の子供はエンデルと同じく苦手)
一方、エンデルや子供たちがフェンシングに真剣に打ち込む姿勢とは真逆の、何も考えずただ「退屈」でやりすごしていた自分の高校時代を苦々しく反芻してしまった。

常に危険に晒されているエンデル。
目の前のことに打ち込んで常に前進を企てる子供たち。
それぞれの真剣がぶつかりあう「距離感」から生まれる心地よい緊張が忘れ難い感動を生む佳作である。

『こころに剣士を』
監督: クラウス・ハロ
出演:マルト・アヴァンディ、ウルスラ・ラタセップ、リーサ・コッペル
製作年:2015年
製作国:フィンランド、エストニア、ドイツ
上映時間:99分

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館長
館長
仙台で映画館を開業して、生まれ故郷の発展に貢献したいと思っている49歳です。 49年間、経済的にも精神的にも映画に救われ続けてきたという思いがあります。 ミニシアターを作ることで、ささやかながら映画に恩返ししたいと思っています…といっても何か秘策があるわけではまるでなし。 今できることは、とにかく思いを発信し続けていくだけです!

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