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ヒューマン

“わからない”の魅力『永い言い訳』

“わからない”の魅力『永い言い訳』

(C)2016「永い言い訳」製作委員会

オープニング。美容師の妻(深津絵里)に髪を切ってもらっている小説家(本木雅弘)。
衣笠幸夫という本名から、鉄人(鉄人の方は「祥雄」だが)を引き合い出されるのは嫌だから“さちお”って呼ぶな、とか、鵺について熱く語っててバカみたいだからTV消せ(人気イケメン作家だからTVにも出演している)とかごにょごにょ言ってて自意識過剰も甚だしい。でもじっさいTVに出てるんだから実は出たがりでもある。
妻に対する態度および言動が失礼極まりないこの小説家はハッキリ言ってイヤな奴だし、同時に面倒くさい奴であることが冒頭で示される。

それでも観ていてうんざりこないのは、本木雅弘(シブがき隊のモックンという呼称は35歳以下にはもはや通用すまい)の完璧な美しさのせいだろうか。
これで小説書けるんだから、イケメン作家ともてはやされて当然かもしれない。

そんな美しい小説家の髪がどんどん伸びていく。
実は妻以外の人間に髪を触らすことができないのだ。
なぜかはわからない。

妻がバスの事故で命を失った時、小説家は自宅で愛人(黒木華)と交わっていた。
冒頭の空気から明確にわかるとおり夫婦の関係はすでに冷え切っており、突然死別したからといって俄かに悲しみがこみ上げるでもなく、でも有名人ゆえ葬式がTVで中継されちゃったりするんで、悲嘆にくれる夫を演じてみるしかない。
TVカメラから解放され車中に身をうずめるやいなやバックミラーで髪型を気にする姿に向ける担当編集者(池松壮亮)の冷たい一瞥に、この男に対する自分の思いを代弁してもらった思いだ。

こんな感じの男が、バス事故のさいに妻と同行していて同じく命を落とした妻の親友の夫(竹原ピストル)と出会う。
小説家とは正反対の単細胞男だが、妻の消滅を心の底から嘆いているところも正反対。
まさに水と油。共感ポイントがひとつもないはずなんだが、なぜか小説家は男の子供の面倒を見始めてしまう。理由はわからない。

最終的に小説家は小説を書く。
この一連の経験から何かをつかんだのだろうか?

髪をすっきり切った小説家は何やら物思い顔だが、徹頭徹尾何を考えているのかわからなかった。
軽薄だし時々キレるし面倒くさい奴だけど同時に魅力的でもあるこのキャラクターに、日常生活における他人の不可解さと不可解ゆえに根拠不明の魅力を見出す感覚を『永い言い訳』に見た思いである。

『永い言い訳』
監督:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、深津絵里、池松壮亮
製作年:2016年
製作国:日本
上映時間:124分

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、2018年からは東京でも上映会を始めました。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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