
(C)2016「君の名は。」製作委員会
映画の観方として。
私は原則的に、映画というものに「胸キュン」を求めない。なので映画を鑑賞中に胸キュンが始まったら、感受性のスイッチを切って無心になるか、目をつぶって視覚的に胸キュンを排除し、胸キュンの影響を受けないようこれ努める。
実のところ、多くの映画において胸キュンは作品を構成する一要素にすぎず、別に胸キュンを排除したところで、映画の楽しみが損なわれることはまずない。
『君の名は。』は、相当な胸キュン映画と聞いていたので当初は関心はなかったのだが、一部の寸評では単純な胸キュン映画ではなく、若干ダークな展開が待ち受けていることを仄めかしていたので興味を持ち、この目で確かめてみることにした。
結論。ちっともダークじゃなかった。
それどころか最初から最後まで様々なタイプの胸キュンが繰り出される、胸キュンの回転寿司のような恐ろしい映画だった。
冒頭で述べたように、私は胸キュンが始まると、自動的にそのシーンを脳内に取り込まないよう抵抗する習慣が身についている。多くの胸キュンには前兆があり、例えば街中で急に雨が降り出したら、それは十中八九、恋が始まる五秒前と考えて差支えない。満員電車のドアが閉まる瞬間も、胸キュンの危機だ。
私が普段観るような映画なら、そうした胸キュンの瞬間はせいぜい二、三度訪れる程度だが、『君の名は。』は違う。ひとつ前の胸キュンの皿を食い終わらないうちに、新たな胸キュンが形を変えて投下される。胸キュンの処理が追いつかない。オーバーフローする。こちらが頑強に胸キュンを否定しても、胸キュンの物量作戦によって図らずも胸をキュンキュンさせられそうになる。
が、そこで胸をキュンキュンさせてしまっては、胸キュン否定派の名折れというもの。涙腺を刺激するテーマ曲と、周囲のすすり泣く声が胸キュンしろ、胸キュンしろと執拗にプレッシャーを掛けてくる中、私は必死に戦った。暗闇の中で苦悶する戦士となり、次々と胸キュンを迎え撃った。
そして勝った。最後まで一度も胸をキュンキュンさせることなく、エンドロールまで完走した。
胸キュン否定派の真価が問われる問題作であった。
『君の名は。』
監督:新海誠
出演(声):神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ
製作年:2016年
製作国:日本
上映時間:107分


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