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ドキュメンタリー

遠い国の昔話と片付けることなかれ『チリの闘い』

遠い国の昔話と片付けることなかれ『チリの闘い』

(C)1975, 1976, 1978 Patricio Guzman

本作の監督であるパトリシオ・グスマン作の『光のノスタルジア』と『真珠のボタン』を上映会で扱わせていただいた。
この2作品は、独裁者ピノチェトによって夥しい人々が収容所に送られ苛烈な拷問を受け命を落としたことを、宇宙的視野で淡々と見つめている。
その体験を踏まえて本作に接すること - ピノチェトに潰されたアジェンデ政権の崩壊を描いた克明な記録である本作を見つめること - は非常に辛い体験だ。

冒頭からして衝撃的だ。
アジェンデが籠る大統領府への空爆。燃え上がる建物。この1カットだけで何が行われているのかが咄嗟に了解される。すなわち「敗北」の物語の始まり。こんなに辛い映画の始まり方ってあるだろうか。

アジェンデは高い理想を掲げ、労働者階級の圧倒的な支持を受けて世界で初めて民主的な選挙で社会主義政権を成立させた。が、選挙での得票率は40%台であり、政権与党でありながら議会では少数派である。議会は富裕層や多国籍企業をバックに持つ右派政党に握られており、アジェンデが提示する改革案は次々に廃案に追い込まれる。
街では右派に操られた連中が騒乱を繰り広げて国を混乱に陥れ、大企業の経営者は労働者を焚きつけてストライキを起こさせ、経済を停滞に追いやる。
それらの混乱や経済的困窮の原因はマスコミによってアジェンデのせいにされる。
全てを裏で操っているのは覇権国家米国だ。
ああ、なんたる負け戦。この状況で勝てるわけがない。

しかし貧しい労働者階級はアジェンデを徹底的に支える。
明日を今日より良くするのだという思い。貧乏だけど進歩を信じている人々の瞳の輝き。人は理想に燃え、社会の変革を信じた時にこんな表情になってこんなにも団結し、こんなにも勇気ある行動に出れるものだということを目の当たりにして、そういうことと縁もゆかりもない自分は茫然とする。

しかし軍部(と米国)は最後の手段に出る。クーデターだ。
人の理想や希望は暴力によってあえなくぶっ潰され、敗れ去るのである。
『チリの闘い』はその冷徹な事実をフィルムに焼き付ける。しかし同時に、一時だけ人々の瞳に輝いた光もまた真実として映し出されてはいなかったか?

『チリの闘い』で描きだされた絶望と希望。そのいずれも遠い国の過去のできごととしてでなく、今まさに自分が生きている世界の現実として受け止めるのだ。その一点にこそ意味があると、僕は思う。

『チリの闘い』
監督:パトリシオ・グスマン
製作国:チリ

「第一部 ブルジョワジーの叛乱」
製作年:1975年
上映時間:96分

「第二部 クーデター」
製作年:1976年
上映時間:88分

「第三部 民衆の力」
製作年:1978年
上映時間:79分

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館長
館長
仙台で映画館を開業して、生まれ故郷の発展に貢献したいと思っている50歳です。 50年間、経済的にも精神的にも映画に救われ続けてきたという思いがあります。 ミニシアターを作ることで、ささやかながら映画に恩返ししたいと思っています…といっても何か秘策があるわけではまるでなし。 今できることは、とにかく思いを発信し続けていくだけです!
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