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ヒューマン

ありそでなさそな……『海よりもまだ深く』

ありそでなさそな……『海よりもまだ深く』


(C)2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

映画やドラマで登場人物がほぼ美男美女だったり、20代の主人公の一人暮らしが分不相応なマンションだったりだと、物語への共感度は下がってしまう。しかし一方、現実ばかりでもしんどいので、おとぎ話ならば、それも「あり」になる。

『海よりもまだ深く』は「ありそでなさそな」話である。別れた夫婦が旦那の母親の住む団地の一室で小学生の息子も交え嵐の一晩を過ごす。元妻役真木よう子は事務服姿でも人妻の色香全開、ちょっと冷たくされる程度なら是非とも側に居てもらいたい程だ。旦那の阿部寛は人としてギリギリのダメ男を演じ、旦那の母親役、樹木希林は背景の一部の如くどこにも現れ、別格扱いだ。この作品の「ありそ」は住まいで、撮影場所の団地は是枝監督が子供の頃に住んでいたそうだ。「なさそ」は、美男美女の離婚夫婦が一晩でも同じ屋根の下で過ごすことだろう。「ありそ」だけでは身につまされ、「なさそ」だけでも白けるが、「ありそ」と「なさそ」のバランスが絶妙で、好感と共に話がすぅーっと胸の奥まで入って来るようで心地良い。ウエットな人間関係を描写しつつのテンポ良い展開も、この鑑賞後感に一役買っている。是枝監督の作品は、他も大人のおとぎ話になっていると思う。

俳優のMVPは、なんといっても主人公の既婚の姉役小林聡美だ。樹木希林との掛け合いは脚本の存在を感じさせず、一見の価値がある。笑いのシーンなのに見事すぎて背筋がゾクゾクッとした。おとぎ話の中での2人の会話はまさに「ありそ」なのだ。そして小林聡美がお笑いに徹することで、真木よう子の不機嫌そうな色気と美貌をさらに引き立たせている。

タイトルはアジアの歌姫テレサ・テンの名曲「別れの予感」の一節とのことで、改めて聴いてみた。下り坂の2人の歌だが、「これ以上あなたを愛するなんて、私にはできない」、という一節が、こんなにこの人を愛せるのはこの世で私だけ、と切な~い愛を叫んでいるようで、気が付けばリピートしていた。別れの歌からタイトルを取っているので、ウハウハのハッピーエンドかどうかは推して知るべしだが、不思議と人に優しい気持ちになれる物語だ。

『海よりもまだ深く』

監督:是枝裕和
出演 樹木希林、阿部 寛、真木よう子、小林聡美
製作年:2016年
製作国:日本
上映時間:117分

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1966年生名古屋出身、東京在住。会社員。業界での就業経験なし。映画好きが高じてNCWディストリビューター(配給・宣伝)コース、上映者養成講座、シネマ・キャンプ、UPLINK「未来の映画館をつくるワークショップ」等受講。現在はUPLINK配給サポートワークショップを受講中。映画館を作りたいという野望あり。
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