Toggle

ヒューマン

子供に導かれて見えた世界『ルーム』

子供に導かれて見えた世界『ルーム』


(C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

人は大なり小なりコントロールし合って生きているものだということは頭ではわかっているが、他人からあからさまにコントロールされていることが自覚される状況は僕にとって最悪の悪夢である。

『ルーム』は、親子が監禁されている状態から始まる。
狭い部屋に閉じ込められ、自分の行動が自分の自由にならない状態-僕にはまさに悪夢だ-から早く彼らを解放して欲しい!とのっけから切望し心が乱れる。

子供が5歳の誕生日を迎えた日。
母親は部屋から脱出することを決意し、子供に部屋の外に本当の世界が存在することを教える。しかし子供は混乱し、母親の言葉を全力で否定する。
この狭い部屋で生まれた子供にとってはこの部屋が世界のすべてである。
5歳の子供の身になればわかることだが、「ったく聞き分けのないガキだな!」と心の中で悪態をつく自分がいた。
自己嫌悪その1。

二人を監禁している男に対する嫌悪は抑え難く、スクリーンに物を投げようかとすら思った。
しかし僕は悟ってしまった。嫌悪するくらい強く感じるということは、その嫌悪の要素が自分の中にあるという証拠である。
自分はコントロールされることが耐えがたい。しかし他人に対しては、自由を奪おう、思いのままに操ろう、という思いを持っているのである。
監禁者は僕であった。
自己嫌悪その2。

めでたく親子は部屋を脱出することに成功する。
しかし世界は二人をすんなり迎えてくれるわけではない。
特に酷いのがテレビ番組のインタビュアー。
母親が出演した番組で「あなたの選択は正しかったのか?」と迫るのである。
「長年監禁され世界になじめずに傷ついている人間に言うセリフか!」と頭に血がのぼるが、それは僕が映画でこの親子を見つめてきたから言えることで、世間から見たらただの好奇の対象でしかないのだ。
ここに僕はまたもや自分を見る。他人に冷淡な自分を。
自己嫌悪その3。

しかし最終的に僕は子供に救われることになる。
子供はスポンジのような柔らかい心で世界を徐々に受け入れ始めるのだ。
バァバと同居しているボーイフレンドのお爺ちゃん、お爺ちゃんの飼い犬、近所の子供…
子供の目線で捉えられた犬や近所の子供の姿を見て、僕も新たに世界を捉え直していく喜びに震えた。

さて、子供はあの忌まわしい部屋を見に行きたいと言い出す。
内心「勘弁してくれよ」と思ったが、子供は部屋をひととおり見てから部屋に「バイバイ」と言葉を告げるのである。
ここで初めて僕の中で「部屋」が「存在」することになった。

広い世界も部屋と同様に「在る」。
ひとつひとつ受け入れていくことが可能である。
犬や近所の子供にように。
そしていずれは誰かに「好きだ」と言う機会が訪れるかもしれない。
『ルーム』を観終わって、そんな可能性に満ちた未来を想った。

『ルーム』
監督:レニー・アブラハムソン
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ
製作年:2015年
製作国:アメリカ
上映時間:118分

The following two tabs change content below.
館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、2018年からは東京でも上映会を始めました。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
Return Top