
(C)2006 Kick the Machine Films
冒頭またはラストのカットが印象的な映画というのは数多くある。
が、『世紀の光』のようにその両方とも鮮明に記憶に残ってる映画は珍しい。
もっともこれは僕の記憶力の問題である。
日々いろんなことを忘れて生きているが、せめて映画くらいは記憶にとどめておきたいものだと思う。
しかし、今まで観てきた膨大な数の映画の大半は憶えていないという事実に向き合うのは、悲しいものだ。
『世紀の光』もいずれ忘れ去っていくだろう。
だから、今まだ冒頭とラストのカットが記憶に鮮明にとどまっていることが嬉しい。
冒頭は風にゆらめく木。
ラストはエアロビクス。
特にラストは印象的だった。
NEIL&IRAIZAの音楽が心地よく響くなか、公園でのエアロビクスのシーンをえんえんと映している途中で唐突に映画が終わる気持ちよさといったら…
忘却の徒である僕が、それでも憶えている映画のラストカットは他にもなくはない。
それって、観ていて「このカットがこのまま続いていったらいいなぁ。でもきっとここで終わるだろうな」と予感して本当に終わる、というものが多い。
本作のラストはまさにそういう類だった…いや、唐突に終わってただびっくりしただけだったかも…ああ、もう記憶が曖昧になっている。悲しい。
本作は、地方の緑豊かな病院を舞台にした前半と、都会の近代的な白い病院を舞台にした後半の2パートで構成される。
前半と後半で同じキャストによる反復したストーリーが描かれる。
前半の木々が風に舞うゆったりとした時間。
後半のシンメトリーが美しい清潔な空間をゆっくりと移動するカメラ。
いずれも心地いい。
が、後半を夢見心地で体験しながら前半を夢想するという、奇妙な感覚が何より忘れ難い。
ん?後半部分を前半から夢想していたような気もする…そんなはずはないのだが。
『世紀の光』は、そんなふうに時間の流れの混濁を招くことで、時間は一定方向に流れ決して元には戻らない、という冷徹な事実を一瞬忘れさせてくれる。
僕が人生において主体的に体感できる時間は、いずれ本作のエアロビクスのようにスパっと(しかも途中で)断ち切られることになるだろう。
それまでのもう少しの間、映画の中で時間の行き来をして遊んでていいよ、と言われた気がした。
『世紀の光』
監督:アビチャッポン・ウィーラセタクン
出演:ナンタラット・サワッディクン、ジャールチャイ・イアムアラーム
製作年:2006年
製作国:タイ、フランス、オーストリア
上映時間:105分


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