ホラー映画界の巨匠ウェス・クレイブンがこの世を去った。
あくまでも私見だが、ウェス・クレイブン(なぜかこの人はフルネームで呼ばないと居心地が悪い、ウェスさんでもクレイブン氏でもなく)という人は、恐怖が内包するどす黒いエンタテイメント性、いわゆる“怖いモノ見たさ”という人間心理を体系的にマネタイズすることに成功した最初の監督さんではないかと思う。
それまでのホラー映画から覚えた「何だかイケないものを観ている」という背徳感や罪悪感、いわば“毒”ようなものを、あたかもフグを捌くかのごとく巧みに取り除き、一般のオーディエンスの味覚に合うよう後味さっぱりに料理してみせる匠であった。
そんなウェス・クレイブンの代表作のひとつが『エルム街の悪夢』だ。
中学生の頃、映画館のシートの手すりを握りしめながら、おっかなびっくり鑑賞した記憶がある本作を、今回20数年ぶりに見直してみたところ、あにはからんや、ちっとも怖くなかった。
けど、まあ、これは当然のことで、まずもって当時の自分と現在の自分とでは積んできたホラー経験値の嵩がちがう。血糊や臓物ドヴァの過激なスプラッターなどに比べたら相対的に「怖くない」というだけであり、映画そのものは今観ても十分面白い。
それに怖さを感じなかった分、セリフや音響や小道具により意識が向けられ、映画そのものをじっくりと味わうことができた。特にフレディの殺人シーンはいずれも趣向が凝らされ、CGなどない当時の環境下で“怖いシーン”を創造することに心血を注いだクリエイターたちの燃えさかる(時に暴走気味な)パッションがひしひしと伝わってきて、感慨深い。
薄暗くて、血まみれで、健全な青春時代をありがとう、ウェス・クレイブン。合掌。
『エルム街の悪夢』
監督:ウェス・クレイヴン
出演:ジョニー・デップ、ロバート・イングランド
製作:1984年、製作国:アメリカ、上映時間:91分
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