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青春

死んでたまるか『ソレダケ/that’s it』

死んでたまるか『ソレダケ/that’s it』

bloodthirsty butchers (ブッチャーズ)を初めて見たのは、確か下北沢ClubQueだったか。
ナンバーガールとのツーマンだったが、ある種伝説的なその二つのバントは、もう随分と人気で、ライブハウスの中は身動きが取れないほどだった。
しかし、そんな観客の熱狂や歓喜はどこ吹く風で、当の本人たちは、顔をしかめてどこかを睨みつけながら演奏していたのを覚えている。

この映画には、全編に渡ってブッチャーズの楽曲が鳴り響く。
耳が痛くなるくらいデカイ音量で、まるでライブハウスにいるみたいだ。
効果音すら、彼らの出す音であり、小道具にも彼らの世界観が反映されている。

ブッチャーズほど地下が似合うバンドはいないかもしれない。
壁に囲まれて、少し湿った、煙草の匂いばかりする場所。
階段を下りて、下りて、下りて、落ちていきそうな深い場所。

映画『ソレダケ/that’s it』は、この世の深みにはまっている者たちの物語である。
暮らすのは地下。決して日は当たらない。

だけど、何の因果か生きている。
生かされている。
生きている限り、憎しみが生まれ、悲しみが生まれ、愛してくれと体が訴える。

憎んで嘲って罵っても、本当は日の当たる場所で安心してみたいのだ。

その無意識の欲求が、彼らを駆り立てる。
地位も、畏怖も、支配も、本当の安寧をもたらしてはくれない。

もがいて苦しんで助けを求めても、現実は、あっけない。
与えられるものなんて何もない。

憎しみも悲しみも愛情への希求も、
怒りも依存も世間からの謗りも。

明日の行方も支配される安堵も、
生への執着も死への恐れも。

仄暗い希望も、闇に光る絶望も。

そこにある。
ただ、それだけ。

ただ、先へと進むだけ。

『ソレダケ/that’s it』

監督:石井岳龍
出演:染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳、綾野剛
製作年:2015年
製作国:日本
上映時間:110分
楽曲:bloodthirsty butchers

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昭和モダ子
昭和モダ子
基本スタイルは、映画鑑賞=人間観察。人間の機微を描く映画が好きです。漫画、小説、音楽のことなんかも、映画とミックスしてお届けできたらと思っております。邦画とドキュメンタリーが頻繁に登場しますが、どうぞお付き合いくださいませね。
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