
アイデア。
日々星の数ほどのアイデアが世界中で生み出され、カタチになることなく思考の深淵へと消えてゆく。多くのアイデアは当人にとって「最高!」のものである一方、それらが客観的に認められることは稀であり、アイデアが斬新であればあるほどそうした傾向は強くなる。
『ザ・シャウト』もまた、「叫びで人を殺せる」というよく言えば野心的、一般的には「はあ、何だそれ?」と一蹴されるであろう荒唐無稽なアイデアを、「俺はこの映画を撮りたいんだああああっ!」という初期衝動と執念によって実現せしめてしまった豪胆な一本である。
監督のイエジー・スコリモフスキーは、ロマン・ポランスキーの傑作『水の中のナイフ』の脚本も担当したポーランド映画界の巨匠。そのせいかアラン・ベイツやジョン・ハートなど俳優陣は妙に豪華なのだが、異様に長いクリケットのシーンや、過疎化まっしぐらの寒村のセットなどから察するに、この「絶叫映画」に共感する出資者は少なかったようだ。
それでも、謎の放浪者クロウリーが十八年かけて会得したと豪語する「必殺シャウトの術」の演出には、当時の最先端技術だったドルビーシステムが採り入れられるなど気合十分。実際には近くの羊たちがバタバタ倒れるだけという何とも微妙な威力の奥義ではあるが、その生々しい「絶叫」シーンにはCGなどでは決して表現できない異様な迫力が詰まっている。
『ザ・シャウト』は決して名作とは呼べない、むしろ「珍品」として扱われる類の映画だが、「叫びで人を殺せたらすごくね」というアイデアをプラトニックに追求する監督の男気に心を打たれたオーディエンスなら、ラストで満を持して繰り出される「全開シャウト」の牧歌的なスペクタクルシーンに、拍手を送らずにはいられないはずだ。
『ザ・シャウト さまよえる幻響』
監督:イエジー・スコリモフスキー
出演:アラン・ベイツ、ジョン・ハート
製作年:1978年
製作国:イギリス
上映時間:94分


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